昨日、私も事務局をつとめた若手研究者問題シンポジウムを国公労連の会議室で開催しました。シンポジウムの中で、首都圏大学非常勤講師組合の松村比奈子委員長が、奨学金の問題で国を相手取った集団訴訟を現在準備中であると話していました。
「世界の常識は日本の非常識」、その最たるものが「奨学金」です。OECD加盟30カ国のうち「返済の必要のない給付制奨学金制度」があるのは28カ国にのぼり、大学の授業料無償化は15カ国で実施されています。大学の授業料が無償でない上に給付制奨学金制度がない国は日本だけです。
「国際人権A規約第13条」には、「中等教育と高等教育の無償化の漸進的導入により、すべての者に対して均等に機会が与えられるものとすること」と明記されています。この国際人権規約を批准している160カ国中、日本とマダガスカルの2カ国だけはこの「中等・高等教育の無償化条項」を留保したままです。ようするに、世界160カ国の中で、政府として「中等・高等教育の無償化なんか進める必要はない」と宣言しているのが、日本とマダガスカルの2カ国なのです。
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「中等・高等教育の無償化」と「教育の機会均等」は、「人権」として保障する必要があるというのが、「世界の常識」です。世界の中で、「誰もがお金の心配なく学べる社会」からいちばん遠い社会をつくっているのが日本という国なのです。
上のグラフ(OECD調査から一部抜粋)にあるように、北欧3カ国は、大学の学費が無償の上に、5割から7割の大学生が「返済の必要のない給付制奨学金」を受けています。
世界で最も高い学費となっている日本では、高校と大学に通わせるのに1,000万円もかかります。その上に「返済の必要のない給付制奨学金」が日本にはないため、低所得世帯は進学が非常に困難になっています。「日本の非常識」な貸与制という奨学金のローン化が、卒業後の厳しい雇用状況を目の当たりにして奨学金を借りること自体を躊躇する若者も広がっているのです。
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さらに、野田政権は、貸与制奨学金のローン化を強めようとしています。「独立行政法人の抜本見直し」を掲げ、日本学生支援機構の奨学金制度を金融事業とみなして、奨学金の有利子化を一層強めるとともに、ブラックリスト化など滞納者へのペナルティーの強化をすすめています。
日本学生支援機構の2007年の調査によると、奨学金の延滞6カ月以上の者のうち、「年収300万円以下」が約8割で、延滞者の就業状態は非正規雇用と無職が約5割にのぼっています。延滞困難者への猶予制度の期間は最長でも5年間で、5年を過ぎれば年利10%の延滞金が課され、その上、文部科学省は、2010年4月から延滞が3カ月を上回った者に対して、個人信用情報機関に個人情報を通報するブラックリスト化や、法的処理強化などを強めているのです。
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博士過程を終了するまでに1千万円近くの借金(奨学金の返済額)を背負うことも珍しくありません。大学非常勤講師アンケート(回答者1,011人。2007年調査。最新アンケートは現在集約中とのこと)によると、平均年齢は45.3歳、女性55%、男性45%、平均年収は306万円でうち250万円未満が44%、その上、授業・研究関連の支出平均は27万円でほとんどが自己負担。雇い止め経験者は50%にのぼります。首都圏の私立大学では授業の6割近くを非常勤講師が担当。大学の非常勤講師は全国に約2万6千人いますが、その多くが典型的な高学歴ワーキングプア状態に置かれています。奨学金を「返したくても返せない」という貧困スパイラルの中にあるのです。
上のグラフは「教育機関への公財政支出の対GDP比」(「図表でみる教育 OECDインディケータ(2010年版)」)です。日本はOECD28カ国中最下位で、世界で最も「教育を自己責任」としている国です。その上、貧困状態にある若者に対して、奨学金返済をサラ金の取り立てのように迫り、「貧困は罪」とばかり罰するという「世界で最も非常識な国」です。
「誰もがお金の心配なく学べる」という世界であたり前の権利が日本においては侵害されているだけでなく、人権侵害にあってローン地獄に陥れられた若者を罰するという倒錯した社会となっているのが日本なのです。首都圏大学非常勤講師組合による奨学金問題で国を相手取った集団訴訟というのは、おそらくこうした問題が争われるのだろうと思います。(※昨日のシンポジウムの中で、首都圏大学非常勤講師組合の松村比奈子委員長は集団訴訟についての詳細は話していませんでしたので、今回のエントリーはあくまで私の予想ですので御了承ください)
(byノックオン。ツイッターアカウントはanti_poverty)
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